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鳥取地方裁判所 昭和23年(行)7号 判決

原告

米田友好

被告

鳥取県知事

主文

原告と訴外石坂重光との間における別紙第一目録記載の土地、訴外前田幸一との間における別紙第二目録記載の土地訴外高本修子との間における別紙第三目録記載の土地の各賃貸借合意解約につき被告が昭和二十三年二月十五日なした不許可処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨

主文と同旨

事実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、原告はかねてから訴外石坂重光に対し別紙第一目録記載の土地を訴外前田幸一に対し別紙第二目録記載の土地を訴外高本修子に対し別紙第三目録記載の土地を各賃貸して耕作させていたところ石坂重光は妻が病氣老衰のため右前田幸一は長男が戰死のため右高本修子は夫の戰死と姑が病氣老齡とのため、何れも手不足で耕作不能に陷り何れも昭和二十二年一月頃右農地の返還を申し出たのでこれを承諾して右農地を引取り次いで農地調整法に基き鳥取県東伯郡上小鴨村農地委員会を經由し被告に対し右各賃貸借合意解約につき許可の申請をしたがその際右農地委員会は調査の結果原告の勞働力は男二名女二名計四名家畜牛一頭その農業施設は完備し小作人によるに比し增大の見込であるのみならず小作人についても右賃借中の農地を耕作することが困難であるため返還を申し出たものであつて生活に不安はなく且つ双方共円満裡に合意しているとの正当な認定を下し右合意解約を許可すべきものとの意見を被告に進達したので被告としては右農地委員会の為した認定を覆すに足る根拠がない限り右申請を許可せねばならぬことは農地調整法施行令第十一條により明らかであるに拘らず被告は昭和二十三年二月十五日何等の根拠もなく濫りに右申請不許可処分をしたものでこの処分は違法であるからその取消を求めるため本訴請求に及んだ旨述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とすとの判決を求め答弁として原告がその主張の土地をその主張の各訴外人に賃貸し耕作させていた事実原告がその主張の如く許可申請をしたところ被告がこれに対し不許可処分をした事実はこれを認めるが原告がその主張のような事情の下に右土地の賃貸借を合意解約しこれを引取つた事実は不知その余の原告主張の事実は否認する被告の右不許可処分は農地調整法第九條第三項による自由裁量権の範囲内で為されたものであるから手続上の違法なき限り仮令裁量を誤つたとしても裁判所にその取消を求めることができないのみならず右処分は同法施行令第十一條その他の事情を勘案し妥当公正になされたものであるから原告の本訴請求は失当である旨述べた。

(立証省略)

理由

原告が別紙目録記載の土地をその主張の各訴外人に賃貸し耕作させていた事実原告が右土地の賃貸借合意解約につき被告に対し許可申請をしたところ昭和二十三年二月十五日被告が右申請に対し不許可の処分をした事実は何れも当事者間に爭いがない而して右爭いのない事実を綜合すれば右不許可処分の当時において右土地は何れも農地であつた事実を認めるに足り成立に爭いのない甲第一、二号証に証人衣笠直市、高本正〓の各証言証人中山力雄の証言の一部を綜合すれば原告の労働力は男二名女二名計四名家畜牛一頭で農業施設も完備し居り他方訴外高本修子は当時水田七段歩畑一段半を耕作しているが夫が戰死し子供が四人あつて労働力は一人しかなく石坂重光は当時田畑合計八段歩を耕作して居り同人夫婦に母親が手傳いしていたけれども母親は老年且つ病氣となり又前田幸一は当時田畑合計六段歩を耕作しているが婿養子の戰死により労働者が二人となつたのでそれぞれ本件土地の返還を希望したため原告主張の日に合意解約せられたもので原告において右土地を耕作するのは右訴外人等をして耕作せしめるよりも生産を增大せしめる所以であるのみならず右訴外人等に於ても右土地の返還により毫も生活に支障を來す虞れがない状態にあることを認めるに十分であつて右認定に牴触するは措信し難くその他被告の全立証によるも右認定を覆えし原告において右土地を自作するを不当とする事実を認めるに足らないから右土地の賃貸借合意解約につき不許可を決定した被告の処分は違法であると謂わねばならぬ。被告は右不許可処分は被告の自由裁量権の範囲内において為したものであるからたとえその裁量を誤るとも裁判所にその取消を訴求し得ない旨抗爭するけれども農地調整法第九條第三項による許可不許可の行政処分は自由裁量行為ではなく法規裁量行為に属しその裁量を誤つた場合には違法の問題として裁判所の審判権に照することとなるものと解すべきであるから被告の右抗弁は採用し難い。

果して然らば被告の右不許可処分はこれを取消すべきものであるから原告の本訴請求を正当とし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決した。

(目録省略)

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